story
kinoe誕生のストーリー
story 01
「枝」で椅子を作ってみました。
「笠木」ということばをご存じですか?
家具の世界で使われることばで、椅子の背もたれのいちばん上に横渡しされているパーツのことをいいます。では「木の枝」は? 説明なんて要りませんよね。そのまま。木の枝。でも、家具の世界で、それは「廃棄物」と同じ意味だとご存じでしたか?
山で木を切り倒し、製材するため町に運ぶとき、どうしても邪魔になる。だから切り落として丸太にする。「枝」は、そのまま山に捨てられます。それは林業の世界では常識でした。国産の木を使って誰も見たことのない新しい家具を作る、そんなミッションに対して飛騨産業が出した答えは、「笠木」の部分に「枝」をそのまま使った椅子。
名前は「kinoe」。腰掛けると、背中のカーブに添うようにすっと優しく包み込んでくれます。木を湿らせて熱を加えて曲げる「曲げ木」の技術を使っています。ちなみに、これは国産のスギの木の枝。時にはヒノキの枝も使います。
story 02
捨てられるものに目を向ける。
飛騨産業は、約百年前から家具を作っています。飛騨の山にたくさん生えていたブナの木をうまく活用しようというのがはじまり。高い技術と先進的なデザインで人気を博し、その後、次々と環境に配慮した家具を発表してきました。2001年には、家具の素材として「不良」とされ捨てられてきた「節」のある木を使って新しいシリーズを。家具の世界では欠点でしかなかった「節」を“個性”としてデザインに組み込んだのです。
また2005年には、柔らかくて適さないと言われてきたスギの家具を発表。実はスギって日本では余っている木なのです。建材として古くから育てられてきたものの、うまく活用できないまま日本中の山に残されてきました。それを独自の技術を活用し、家具にすることに成功したのです。
そして新たに誕生した「スギの枝」の椅子。その道程にはひとりの人物がいました。
story 03
枝に魅入られた男と、飛騨産業が常識やぶりを実現する。
「kinoe」に使われているスギやヒノキの枝は、皮を剥かれ非常になめらかに磨かれ、背中の曲線にフィットするように曲木加工されています。「枝」の発案者はデザイナーの貝山伊文紀。山に分け入っては、“いい枝”を拾い、ひたすら磨く。枝の表面はいつしか絹のようになめらかになり、でも形は拾った時のまま。そんな作品を作ります。
「kinoe」では、自然の美しさと加工技術の素晴らしさが両立されています。林業の世界の常識では捨てていたものを拾い集め、素材として扱う。家具の世界の常識では、一つひとつの部品は同じサイズと形であるべきなのに、ひとつとして同じものがない。
デザインは幾度も繰り返され、枝を集めるには新たな流通ルートを作りました。木の枝という不確定な素材の加工には、社内の研究所による無限の試行錯誤がありました。
これまでにいくつもの「常識やぶり」を実現してきた飛騨産業は、そこに新たな1ページを加えることに成功しました。
story 04
世界に一脚。でも、シンプルでモダンな“普通の椅子”。
「kinoe」が「枝」を素材とすることで、森のスギやヒノキは丸々一本、無駄なく使えるようになりました。幹は家具に。葉や樹皮は、これもまた自社の技術でまじりっけなしのアロマオイルに。そして枝は「kinoe」に。
ある意味、この椅子は飛騨産業がこれまで森や木に向き合ってきたやり方を象徴するような一脚になったと思います。
森林資源の循環と日本の木製家具の魅力をアピールする「WOOD FURNITURE JAPAN AWARD2016」で賞をいただき、建築界の巨匠・伊東豊雄さん設計の台湾のオペラハウスのカフェでも使われることになりました。でも、「kinoe」は“普通の椅子”です。「枝」なんですけど、派手に主張はしません。シンプルでモダンな佇まいを心がけました。普通の家庭のダイニングルームをさりげなく洗練させてくれるはずです。
機会があればぜひとも掛けてみてください。こんもりとした太い枝の笠木は、きっと柔らかくあなたの背中を受け止めてくれます。
そして「kinoe」にはひとつとして同じデザインのものはありません。あなたの出会った一脚は、本当の意味であなただけの一脚になるのです。